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「灯台物語」重野克明個展

2024 12/5(Thu) ~ 12/14(Sat)

2024年12月5日(木)〜12月14日(土)
日曜・月曜・祝日休廊
午前11時~午後6時 最終日は午後4時まで

作家在廊日
12月5日 (木) ~ 7日 (土), 12月14日(土)

A LIGHT HOUSE CALLED KANATA A LIGHT HOUSE CALLED KANATA

「カナタという名の灯台物語」

作者の名前すら記憶にないが、10年ほど前に読んだある立志伝が忘れられない。孤児として幼少期を過ごした主人公は施設や里親の家を転々とし、飢えや虐待に耐えながら、ロクな教育も受ける事なく、途方に暮れていた。小学校低学年のある日、毎日家を訪れる郵便局員がいつものように玄関のベルを鳴らし、郵便物を主人公に手渡した。しかし、その日はいつもの郵便物と違い、郵便局員は様々な教科書や書籍を少年に差し伸べたのだ。

「少年よ。毎日お前に郵便物を届け、その不遇の生活を目の当たりにし、憂いていた。少年よ。負けるな。絶対に挫けるな。私には、お前の目に映る強い光がよく見える。歯を食いしばれ。そして、学べ。お前のような芯の強い子は、必ずやこの苦境から抜け出せる。決して諦めてはならない。自分の手で、自分自身の人生を変えてみせろ。」

少年は郵便局員の言葉を胸に刻み、もらった書籍がボロボロになるほど読み尽くした。そして月日が過ぎ、少年は独学でハーバード大学へ合格し、巨額な奨学金を得ながら、首席でその名門を卒業され、起業し、その会社は上場するくらい大企業となり、一躍、成功者の地位を掴んだのだ。

栄光を得ながらも、作者は決して郵便局員を忘れる事はなかった。そして、何よりも印象的だったのが、作者は自伝のなかで、その郵便局員を「灯台」のような存在であったと説明されていた。どんなに長くて暗い夜でも、光を照らし続ける灯台のような存在。誰しも人生でいつか出会うであろう、人生を揺るがすほど、大きな影響を与える太陽のような存在。ピンチの時に、優しい手を差し伸べてくれる存在。灯台が灯す光は必ず見つかるものだ。そして夜明けは必ず訪れる。

自分自身、人生で灯台のような存在と出会い、自分が進むべき道へその都度、導いてくれた。そして私も同じく、道に迷った彷徨人に勇気や希望を与える灯台のような存在になりたいと想い、カナタという名の灯台、すなわち「ア・ライトハウス・カナタ」を設立した。

***

前置きは長くなってしまったが、私は予てより版画家・重野克明さんの筋金入りのファンである。抽象表現を軸としたカナタに似つかないと思われるかもしれないが、私はただただ単純に、理屈抜きに、不意打ちを喰らうかの如く、重野さんが繰り成す摩訶不思議な世界観に、まるでブラックホールに吸い込まれるように、虜になっていた。作家の人物の描き方もさることながら、深く広く細かく人間の観察をされていることは明々白々であり、目の前に映る景色を余りにも個性的に解釈され、その特殊とも言うべき視点に人は思わず吹き出してしまう。重野ワールドは微笑ましくもシュールであり、昭和レトロの懐かしさもあり、ユーモアに富み、そして何よりも「愛情」に溢れているのだ。

何度か重野さんの個展を訪れ、作品についての説明や、題材となった実在するご友人やお知り合いのお話を聞き、私は感心を通り越し、感服の念すら覚えた。重野さんのワールドビューが面白い!そして、観察力が鋭い!あの大きな瞳で、人をよく見ているんだなぁ。そしてその独特の世界観を形にする為、あらゆる手法を使える器用さに驚いた。版画の技術のみならず、スケッチや水彩、ましてや油彩のレベルも半端なく高い。額縁も作るわ、陶芸だってやってのける重野さん。誠に天才に思った。

そして、私の中で一つの構想が脳裏を過ぎった。

もし重野さんがカナタのチームを描かれたら、果たしてどんな世界が見えてくるのだろうか。沸々とイメージが湧いてきた。ペルーや中国から漂流して、灯台岸に流れ着くモンテロや李。170cm越えのカナタのツインタワーこと楊と松田のペアリング。厳しくも優しい、灯台の門番こと入社16年目の高橋。世界中のVIPから愛されるカナタの顔であり、エクゼクティブディレクターという、なかなか発音し辛い横文字の肩書きを持つ「久しく見る子」こと砂原。藤野、中野、デリオン、小川や四人のインターン生もしかり。私は多くの素敵なスタッフに日々囲まれながら仕事をしているのだ。幸せ者である。そして、そんな愛すべき強烈なキャラクターで構成されているカナタのチームを、もし重野克明が描いてくれたら、どんなに素敵で、面白い世界が生まれてくるだろうか。想像するだけで思わず、吹き出してしまった。

私は勇気を振り絞り、あるタイミングで思い切って重野さんに打診してみた。

そしてまさか、重野さんが引き受けてくれるとは。

この半年の間、重野さんは幾度もカナタを訪れ、社会見学のようにカナタのオフィスに居座り、スタッフの日々の動きを細かく観察し、社内の雰囲気やメンバーの個性を熟知し、次々と愛溢れる作品生み出してくれた。そして新作が生まれる度、チーム全員がパソコンの前に集まり、みんなで爆笑しながら、笑顔で喜び合う。重野さんのお陰である。そして良きチームに恵まれ、感謝しかない。

この灯台物語は私一人の物語ではない。ここに描かれているストーリー、そしてこれからみんなで描いて行くストーリーは、私だけのものではなく、みなさんのものである。私はあくまでここの住人の一人に過ぎない。灯台物語を紡いでいくのは、一人一人のカナタメンバーである。そう。みなさんが主人公であり、灯台守である。

灯台物語を実現くださった重野克明さんへ。

敬服と感謝を込めて。

***

立志伝で描かれた郵便局員のように、いつか灯台のような存在になりたい。そしてア・ライトハウス・カナタの灯台守たちは、これからも灯台の光を弛まず焚いていくであろう。

「一隅を照らす」ために。埋もれた才能を発掘し、光を当て、そして世に広める事こそ、ギャラリーの大切な責務に想う。出来上がった価値観に縋るのではなく、価値を見出し、共に生み出すことこそ、ギャラリーの真の姿ではないだろうか。

「灯台下暗し」な世の中であるから。隣に咲く一輪の花の美しさを見過ごすように、予てより日本人は近くに潜む美や文化を軽視する傾向がある。しかし、世界に放たれた日本美術は多くの人々に感動を覚え、海外で評価されたからこそ、日本人がその稀有な美に後々気付かされ、逆輸入で日本人に認知される歴史が繰り返される。遥か彼方へ日本の美術文化を広め、日本人に再び知ってもらう為、カナタは今日も世界を駆け巡る。

そして灯台の光は「希望の光」でもある。物価上昇や国内市場の縮小など、芸術家にとって、ますます厳しい現実が控えている。しかし、カナタという名の灯台から放たれた光に誘われ、集まってくれた作家の力になりたい。一寸先は闇である。だからこそ、カナタの光は絶やしてはならない。

次の世代に何を残せるのか。

100年後、200年後の日本人のために。

そして世界のために。

闇夜の航海をやさしく照らす灯台のように。

芸術家が夢を託し、

お客さまがその夢に包まれ、

そして私と社員の夢が叶う場所へ。

導かれるがままに。

過去と未来は一つとなり、

光はやがて希望と成す。

ようこそ。

重野克明さんの「灯台物語」へ。

ア・ライトハウス・カナタ

青山 和平

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